三次元動作解析
「モーションキャプチャー技術」と言ったほうが馴染みあるかもしれません.これは人間の動きをパソコンに取り込んでその動きを詳細に解析する技術です.
最近の映画やTVゲームでは,実在しない生き物やキャラクターが人間そっくりに動いているのをよく目にします.これはコンピューターグラフィックス(いわゆるCG)技術を用いて作られています. 例えば有名サッカー選手とそっくりのシュートフォームを持つサッカーゲームのキャラクターなどがそうです.このような精巧な動きのほとんどは「三次元動作解析技術」を用いて作られています.
具体的には反射マーカー(図1)と呼ばれる目印を身体に貼り付けて,これをいくつもの特殊なカメラ(図2)で捉えることにより,三次元空間内の位置を割り出すというものです. 近頃,アスリートの動作を分析する試みをはじめとして,このような撮影シーン(図3)などをテレビ等で見かけることがあるかと思います.
- 図1.反射マーカー
- 図2.赤外線カメラ
- 図3.撮影シーン
医療への応用
医療現場では三次元動作解析技術を用い,歩き方や動作フォームを分析し,それが良い動きなのか悪い動きなのかを詳細に評価することが可能です.
例えば,歩き方が悪くて膝が痛くなったり,悪いフォームでボールを投げ続けて肩が痛くなったりするのはまさに全身の動きの問題です.
整形外科やリハビリテーション科は痛み自体ではなく,「痛みを引き起こす運動」を治療対象としているため,この検査の有用性に注目が集まっています.三次元動作解析では全身の動きを捉え,全身の中でその部位がどのように動いているかを分析することが可能です.
一般的な検査機器の場合「一つの部位だけ」の検査になりがちで,全身の中でその部位がどのように動いているか?という所が分かりません(木を見て森を見ずの状態).さらに,レントゲンやMRI検査などは静止している状態での評価です(静的評価).しかし,関節の痛みが生じるのは,歩行中や階段動作など動いている状態の場合が多いため,運動自体を評価すること(動的評価)がより重要といえます.
昨今,三次元動作解析装置を導入する施設は増えてきていますが,精密な検査のためには専用の実験室や専門的な技術が必要で,そのほとんどは大病院や研究施設にあります.クリニック規模で設置している施設は全国的にみても珍しいことですが,当院では工学分野の先生のご協力のもと開院当初から動作解析装置を導入し,これまでに延べ1000人以上の方の解析を行ってきました.現在は動作解析検査を手術前と手術後に行うことにより,歩き具合や階段昇降時の動き方が手術後に変わったかどうかの評価(治療効果の判定)をしています.
症例紹介
下のグラフは歩行中の膝の動き(屈伸運動)を示しています。
縦軸は膝の曲がり(屈曲)、横軸は歩行で床に足がついてからもう一度同じ足が床につくまでを100%としています。
黒の破線が正常な膝、赤の実線が重度変形性膝関節症、青の実線が人工膝関節置換術後です。
正常な膝(グラフ 黒の破線)は歩行中グラフの山が大小きれいに二つ出るのが特徴で、これは床に足がついてからもう一度同じ足が床につくまでの間に膝が二回曲がっていることを示しています。これはダブル・ニー・アクションと呼ばれていますが、特に一つ目の山は足が床についた直後に膝を少し曲げることにより床から受ける衝撃を吸収するという重要な役割を担っています。
重度変形性膝関節症(グラフ 赤の実線、および図4)は一つ目の山が消失しています。これは歩行中に関節の動きが重度に障害されており、膝がほとんど床からの衝撃を吸収できていないことを示します。
これに対して、人工膝関節置換術後(グラフ 青の実線、および図5)は、正常と完全に同じとまではいきませんが、歩行中のグラフの山が大小二つ認められ関節の動きが回復していることがわかります。これはきれいに歩けているだけではなく、関節にかかる負担が軽減したことを示します。
三次元動作解析の限界
三次元動作解析により得られたデータは,患者様ご本人へ還元されることはもとより,整形外科の治療やリハビリテーション・プログラム改良に役立つことが期待されます.
しかし,この検査は計測やデータ解析に非常に多くの時間がかかります.
そのため全ての患者様を解析することは難しく,当院では主に医師の診察によって三次元動作解析の必要性が認められた方にのみ実施しております.
三次元動作解析について様々なお問い合わせをいただくことがありますが,当院にて解析方法の確立していない動作の分析などのご依頼にはお応えすることができません.ご理解くださいますようお願いいたします.
当院では膝・腰に痛みのない方(現在治療を受けていない方,過去に手術歴がない方)を対象に「ロコモ健診」を行っております.ロコモとは「ロコモティブシンドローム」の略で運動機能が低下した状態を指します.ロコモ検診では運動機能の低下がないかを確認することができ,検査の一つとして三次元動作解析装置を用いた「歩行分析検査」も行っております.
「歩行分析検査」や「ロコモ健診」に興味のある方は当院リハビリテーション部までお問い合わせください.
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