院長挨拶
ご挨拶
「開業から約17年間を振り返って」
開業から今日までを振り返りつつ、当院について紹介させて頂きます。
2007年6月、石川町に膝関節疾患に特化した有床診療所を開院しました。当時は、医療経済が厳しくなり始めた時期であったため不安な船出でした。しかし、多くの方々のご支援を頂きまして何とかこれまでやってこられました。私は開業まで20年以上の間、北大整形外科教室、その関連病院、そして函館中央病院にて膝関節疾患を中心に診療や研究を継続しておりました。しかし、「残りの人生は自分の得意分野での診療で社会に貢献したい」という思いが強くなり、開業を決意しました。その際、膝専門と謳うからには、保存的治療、理学療法、そして手術療法の全てにおいて解決策の提供をめざそうと考えました。基本理念として以下の3項目を掲げ、全職員に共有してもらうことにしました。
- 私たちは「人と向き合う心」を大切にする医療を提供します。
- 私たちは整形外科の専門的な知識・技術の向上に努め「より良く、より早い社会復帰」をめざします。
- 私たちは地域の発展と地域医療に貢献します。
1)の「人と向き合う心」を持つには、患者さんと向き合うための「力」が必要です。全スタッフに対し研修研鑽を奨励し、可能な限りその機会を提供してきました。2)の「より良く、より早い社会復帰」は整形外科に課せられた大命題であり、それを実現するためには膝関節疾患とその治療に関する研究に基づく診療を行うことが重要であると考えています。したがって、開院当初より多くの臨床研究と生体工学研究を継続してきました。3)の「地域の発展と地域医療への貢献」については、運動機能を改善させることで、患者さんの社会活動やスポーツ活動への復帰を実現し、それが地域の発展につながれば幸いと考えております。
外来は新患も含めて全て予約制にしており、膝関節以外の患者さんには原則として他院受診を促しています。外来診療は、生活指導、投薬、関節注射、そして運動療法などから各々の患者さんに適した治療方法を選択し、その効果を評価しながら行っています。また、生活習慣病に伴う肥満は、変形性膝関節症など多くの膝関節疾患の発症や進行の要因の一つであり、減量はその保存的治療において極めて有効です。当院では2020年から安田浩之医師による内科・生活習慣病の診療を開始し、内科的なアプローチも行っています。
手術件数は2023年末で約8000件、その内訳は人工膝関節置換術が約39%、靭帯再建術が約12%、半月板手術が約43%などですが、近年は膝周囲骨切り術が増えています。2018年からは北大整形外科の下肢診療班所属の医師が、定期出張にて外来と手術を手伝ってくれています。手術後は最大3週間で日常生活動作の自立が得られて退院可能となり、その後は通院リハまたはセルフリハとなります。当院のリハビリ室は、道内最大級の広さ有し小さめの体育館のような施設です。そこで社会復帰や各種スポーツ競技復帰に向けたアスレティックリハビリテーションを行っています。
多くの膝関節疾患の発症と進行には、生体工学的要因が関わっています。そのため、当院では光学的モーションキャプチャー技術を用いた3次元動作解析により歩行動作などにおける膝関節のキネマティクス・キネティクスの研究に取り組んでいます。例えば変形性膝関節症の発症や進行のメカニズムの解明、病態評価法の開発、そして種々の手術治療について、より良い結果が得られる要因の解明を目標としています。この研究では、当院の動作解析研究室においてリハビリテーション部スタッフが解析を行っています。20年前より、函館高専の川上健作先生(現教授)や函館みらい大学の鈴木昭二先生(現教授)、そして旭川医大整形外科の元下肢診療班チーフの前田龍智先生(現当院副院長)と共に動作解析研究グループを立ち上げ、月に1回の勉強会を継続してきました。2018年からは北大整形外科下肢診療班のメンバーも当研究グループに参加しています。その研究成果は、国内学会は勿論、米国整形外科基礎学会などの国際学会に多数発表し、英文ジャーナルにも掲載されています。教室の若手医師や大学院生に臨床や研究の指導も行っています。
整形外科は、小児期から高齢期まで様々なステージにある「運動器」の健康を支えることで、誰もが一生涯自分で動ける社会を創造していくことを目標にしています(日本整形外科学会Hpより)。また、我が国は高齢化社会を迎えていますが、要介護に至る原因のうち関節疾患や骨折などの運動器疾患が24%を占めています(厚労省「2019年国民生活基礎調査」より)。更に、年齢を問わず多くの人が何らかのスポーツを楽しんでいる現代において、運動器の健康が重要であることは言うまでもありません。運動器の健康は、健康寿命の延伸につながり、高齢者の社会参加継続を実現します。当院は、これからも膝関節疾患に対する最善の治療を探求し続けることで、微力ながら社会に貢献していきたいと考えております。
2024年2月吉日
医療法人 悠康会 函館整形外科クリニック
院長 大越康充